2014.04.09

日本が大好きな
訪日外国人に見せたい水辺とは

来日30年のカレン・M・ヘントンさんが英語で伝えたい東京の水辺の魅力

カレンさんは、粋な外国人です。初めて彼女が僕たち(※01)が行っていた体験乗船会に参加していただいた時、乗客の中で唯一浴衣で乗船されました。
それ以来、彼女は東京、横浜の水辺のファンになってしまい、かなりの頻度でツアーに参加してくれる私たちにとって大切な水辺のファンのひとりです。

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(※01)BOAT PEOPLE Associationは都市の水上経験をテーマにした水辺好きが集まった団体です。
写真は2009年に行われたクルーズの様子。最前列にカレンさんが座っている。

そんな彼女からある日突然ツイッターでリプライをもらいました。そこにはこんなことが書いてありました。

最初はなんのことかあまりピンと来なかったのですが、どうやら英語版の都市河川クルーズをやったら、手伝えるよ!ということらしい。
2012年4月28日、英語で案内する都市河川クルーズが実際に開催されました。カレンさんはこの日のために、知り合いに告知し、私たちのクルーズの案内をふまえてご自分で資料を作ってくれたのです。
以下、外国人クルージングの様子を紹介します。

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当日配布された案内はカレンさんの手作り。(撮影 山崎博史)

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日本橋桟橋から乗り込む参加者を誘導するカレンさん(一番右の和服の方)。
お客さんから提供者側への華麗なる転身(撮影 山崎博史)

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日本橋をバックにマイクで解説をするカレンさん。横でアシストする筆者。(撮影 山崎博史)

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神田川のお茶の水付近を行くクルーズ船。みな興味津々。(撮影 山崎博史)

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手を振る参加者たち。視線の先には、秋葉原のコスプレーヤーたちがいました。

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江戸橋ジャンクションの写真を撮る参加者たち。日本人同様に興味があるようです。(撮影 岩本唯史)

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カレンさん。日本人でもなかなかこんな格好しません。(撮影 岩本唯史)

カレンさんは英語の教師をやられるかたわら、日舞に興味があったり、アメリカ大使館で生け花の教師をやられています。学生時代にペンシルバニア大学で日本語と日本文化を勉強され、昭和59年に来日。
TBSの『ここがヘンだよ、日本人』というバラエティ番組にも出演されています。

なぜクルーズをやろうとおもったか

そんな彼女がなぜ、このようなクルーズをやろうと思ったのか聞いてみました。

「日本にやってくる外国人はほとんど日本のことをしらないままやってきます。私は15年まえから実は個人的にガイド役を買って出て、普通のツーリストが体験できないことを伝える活動をやってきたのです。例えば、着物の見た目は写真で伝えることが出来るけれども、その重さだったり着心地は着てみないとわからないじゃないですか?」

彼女は、日本の旅行の提供者が、そこで体験することの価値を普通の旅行者にきちんと伝えきれていないということを問題に感じているという。せっかく日本に来てもらったのだから、そういう体験が必要なんだという。

そんなカレンさん、(※02)BOAT PEOPLE Associationのツアーに参加してみて、日本が水辺ソサイエティーなんだということに気がついたそうです。

(※02)BOAT PEOPLE Associationは都市の水上経験をテーマにさまざまなイベントを行っています。カレンさんが初めて参加したのは2008年の10月11日に行われたコース#2 YOKOHAMA CANAL SCAPEツアー、子安浜のツアーは次の年2009年におこなわれました。

「最初に参加したのは、横浜のキャナルクルーズ でした。横浜の近代的なまちとそれを支えてきた水辺。それはもう驚きました。そういう歴史がきちんと残っていることを知ると、より日本を知ることにつながると感じたのです。」

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子安浜をゆくクルーズツアーの様子。こんな場所が横浜にあること自体驚きだ。(撮影 山崎博史)

子安浜は、工業地帯の奥に残された古い漁村で、国道と運河に挟まれたまちです。埋め立てられた工業地帯はかつては海で、子安浜はシャコ漁で栄えた、れっきとした漁師のまちでした。そのまちが、まるでスイートスポットのようにとりのこされたように残っているので、そこをみなとみらいから見に行くツアーに参加してもらったのです。彼女は敏感に、日本の歴史の中に水との関わりが深いことを感じとったようです。そのような体験を通して日本を外国人に知ってもらいたい、そういうことのようです。

英語版都市河川クルーズをやってみて

実際に英語版クルーズのテストをやってみて感じられたことを聞いてみました。

「まず、英語にすればすぐ伝わるというわけではないことを思い知りました。日本人なら「将軍」と言えば徳川家の支配構造のことだとわかりますが、まず外国人はそれがわかりません。なので、江戸城が皇居に変わって、「天皇」に変わる前のサムライの親玉だということをいちいち説明しなければならないということが大変でした。
また、日本橋といえば、日本の道路の起点となっていて象徴的な存在であることは日本人ならだれでも理解できますが、それも外国の人にはわかりません。まちの中心が橋であることがそもそもよくわからないのです。」

なるほど。英語にして伝えるというのは、ちがう文脈が必要かもしれませんね。
では、みなさんはどういうところに反応していたのでしょうか?

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スカイツリーを見る参加者たち。(撮影 岩本唯史)

「スカイツリーが見えたときはみんな盛り上がりましたねえ。あれはやっぱりわかりやすい象徴的な存在なんですよね。
でも外国人観光客が日本人と違うのは、みんなわからないことがあると遠慮せずに聞いてくること。せっかく用意したのに、案内のペーパーをみてくれませんでしたが質問はたくさん。日本人向けのクルーズより時間をかけて説明の時間が必要だと感じました。」

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日本橋桟橋の前で説明するカレンさんと筆者(撮影 山崎博史)

わかりやすいスカイツリーに反応する人向けのツアーも必要かもしれないが、より深く知ることで都市を理解したいという人向けのツアーも必要だと言うカレンさん。

BOAT PEOPLE Associationは都市河川のクルーズを体験してもらうことで都市河川の魅力を一般の人に伝えてきましたが、カレンさんはともに参加者として経験を積んできました。また、テレビでの紹介などもあって、都市河川の魅力が一般の人々に浸透していったさまを見てきたカレンさんはこの魅力が外国人にも伝わることを信じてやまないようです。

浮世といううつろいやすいものをとらえる感覚

「日本の文化は季節や生命に対する感覚がするどいという特徴があるんです。そういうことに敏感だからこそ、俳句や短歌が発達したんです。でも日本に来てコンクリートジャングルではそういうことは体験できない。でももしかしたら、都市においてそういう感覚を体験できるのが水辺なんじゃないかと私は思うんです。」

具体的にどういうことでしょうか?
「場所ごとに音楽をかけたらいいかなとおもいました。でんでん太鼓は風景や場面を劇中で想像させる効果音ですが、そういうのを水上でやれば、実際の風景と伝統の音がリンクする。そういう経験を外国人ができるのはとてもいいと思うのです。海外ではいまジャパニーズホラー映画がはやっていますが、その効果音は外国の人には新鮮なのです。」

最後にカレンさんは『浮き世』という印象的な言葉を伝えてくれました。
「川は一瞬たりとも留まらず流れ続け、うつろいやすい。季節によっても時間によっても気候によっても印象が違う川。いわば浮き世のような姿です。その一瞬のさまを大切にする日本の文化を伝えたい」

日本人である私たちがあまりに当たり前に思っていること。それを彼女は外国人にどうにか伝えようとしていました。そういう彼女の日本に対する感覚が逆に日本人である私にインスピレーションを与えてくれます。他者に伝えようとする努力によって、日本人の川に対する感覚が明るみになり、日本人の文化そのものが浮き彫りになるというとても貴重な体験を僕自身がさせていただきました。

2020年の東京オリンピックが開催されます。訪日する外国人が急激に増えることが予測されていますが、私たちはこういう機会をたくさんもって外国のひとたちをお迎えする準備をしなければならないのかもしれません。

番外編

今後やってみたいことを聞いてみました

羽田空港と大田区のツアー

「またやってみたいのは、BOAT PEOPLE Associationがやった大田区羽田空港クルーズ。大田区の海沿いのまちが水路から近いのはとても魅力的で、日本人の生活が船から垣間見えるのはとても楽しかった。それと羽田空港の4本目の滑走路が海から見えるのはとても驚きでした。飛行機が着陸するさまを見られるのも魅力」

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貴船川水門のなかに入るクルーズ船。大田区 (山崎博史)

秋葉原の桟橋を設置する

「いつも日本橋から出発していますが、外国人は秋葉原が大好きです。秋葉原に桟橋ができれば、外国人の観光客の導線ができていいんじゃないかなと思います。」

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現在でも秋葉原のすぐそばに和泉橋防災船着場があるが、
利用が解放されているとは言いがたい状況である。(撮影 山崎博史)

 

浜離宮のすぐ横の築地川から出発するツアー

「浜離宮庭園も築地市場とともに外国人観光客の重要な観光スポットですが、その間にある築地川に桟橋があればいい。」

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築地川。橋の左手が浜離宮恩賜公園。奥に見えるのは汐留のオフィスビル。(撮影山崎博史)

ジャパニーズホラークルーズ

四谷怪談をテーマにしたジャパニーズホラークルーズをやりたい。リングやらせんが欧米で大流行しているから外国人にも訴求力があるはず。とのこと。

この記事を書いた人

ミズベリングプロジェクトディレクター/(株)水辺総研代表取締役/舟運活性化コンソーシアムTOKYO2021事務局長/水辺荘共同発起人/建築設計事務所RaasDESIGN主宰

岩本 唯史

建築家。一級建築士。ミズベリングプロジェクトのディレクターを務めるほか、全国の水辺の魅力を創出する活動を行い、和歌山市、墨田区、鉄道事業者の開発案件の水辺、エリアマネジメント組織などの水辺利活用のコンサルテーションなどを行う。横浜の水辺を使いこなすための会員組織、「水辺荘」の共同設立者。東京建築士会これからの建築士賞受賞(2017)、まちなか広場賞奨励賞(2017)グッドデザイン賞金賞(ミズベリング、2018)

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