2015.03.23

ミズベリングインスパイア・フォーラム2015
ポートランド・イノベーショントークス レポート

ポートランドの魅力・ネイバーフッドライフ

現在では、アメリカで一番みんなが住みたい人気の街であるポートランド。ポートランド市都市局に務める山崎満広さんはポートランドの空撮写真を見せてくれた。ポートランドの町はワイルドな自然に囲まれている。成長境界線によって都市と自然保護区域が明確に区分されているのだ。境界線によって都市はスプロール的な拡張を抑制され自然と共存している。だが、山崎さんは、ポートランドは40年前は屋外に出れないぐらい空気も川も汚染されていたと述べる。そんな最悪の状況から現在のポートランドへと蘇った牽引力は市民の力なのだ。「アメリカの中でもポートランドほど住民が立ち上がってものを言う場所はない」と山崎さんは言う。

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ポートランドには、「ネイバーフッドアソシエーション」(Neighborhood Assosiation)という住民自治組織が95箇所存在する。ネイバーフッドアソシエーションはいくつかの地域連合にまとめられ、ネイバーフッド担当局が連携役を務め、市政へとネイバーフッドの考えをフィードバックする体制となっている。
2011年に大学で都市計画を学ぶためポートランドに引っ越して来たケイト・ワシントンさんは、パール地区のネイバーフッドアソシエーションに入った。「ポートランドはまちづくりをする上で先進的な場所だから」、ケイトは実践を行いながら学ぼうとしたのだ。ケイトはパール地区ネイバーフッドアソシエーションのボードメンバーを務めながら、コミュニケーションとプランニングの委員会も兼任している。ここでは町のビジョンやプランは行政でなく住民たちが描き、市に挙げていく。ケイトは「ライバビリティ」(livability)つまり、住みやすさをどうつくるかがネイバーフッドアソシエーションの役目だと述べた。

山崎、ケイトワシントンPPT

商業開発の企画を手がける吹田良平さんは、ポートランドのネイバーフッドのあり方を「アーバンネイバーフッド」(Urban Neighborhood)と名付ける。トラディショナルなネイバーフッドは、郊外住宅地に住み週末はショッピングモールで消費=コンサンプションするライフスタイルで、連携のために連携していた。これに対して、アーバンネイバーフッドは、街なかに住み、顔ぶれが固定せず、会いたい人には知人を二人以上経れば会えるというセレンディピティを享受する生活。自己充足=コンサマトリーを基本とする自立のための連携である。吹田さんは、アーバンネイバーフッドを作るには①ウォーカビリティ(Walkability)、 ②ミクストユース(Mixeduse)、 ③カルチュアルハプニング(Cultural happenings)の3ポイントが大切と述べる。ウォーカビリティは、歩いていても人にも出会うし飽きない街であること。ミクストユースは都市も郊外も、異業種も混じりあうということ。カルチュアルハプニングは文化的な出来事、刺激によって、町がリアルなソーシャルライフの舞台になることだ。
商業プロデューサーの松本大地さんは、生活に楽しむ術に長けたポートランドのパブリックなアメニティとライフスタイルを紹介した。ポートランドのいいところを問うた住民アンケートでは、第一位はアウトドアアクティビティ、第二位はリベラルさ、第三位はフードシーンであった。都市と自然、経済と環境、よく働きよく遊ぶなど対峙することを両立させる新しい都市生活を「デュアルライフ」(Dual Life)と呼ぶ。河川を例に取ればウィラメット川を支流するコロンビア川には、ボナビルダムの水力発電があり、カリフォルニアより電気料金が四割安く、原発も廃棄できた。同時にコロンビア川には、カムバックサーモン流域評議会があり、サケを象徴として水を守るためのライフスタイルを浸透させている。ポートランド市民はサスティナブル・シーフードへの関心が非常に高いという。

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ポートランドスタイルのミズベリング・ワークショップ

ポートランドトークスの準備のため現地訪問したミズベリングディレクターの岩本唯史さんから、ポートランドの市民参加に関する紹介があった。「ポートランドの魅力は人」と岩本さんは述べる。ポートランドのまちづくりに関わる人たちは共通に、前向きのスパイラル連鎖のイメージを持っているという。なぜなら、ポートランドの市民参加のレベルは下がらないという確信があるからだ。地域の交通行政をプランニングするボブ・ヘイスティングさんが「私たちが本当につくっているのは、ヒューマンインフラストラクチャーです」と述べたことが印象深かったという。人やコミュニティが関与する土壌であるヒューマンインフラが公共空間や建築を生み、コミュニティに還元されていく。そして、人びとはネイバーフッドアソシエーションを通して、与えられた役割の中で各自の責務を果たし、縦割りを越えていく(ブレイキング・サイロ)結果となる。

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パール地区のビジョンをまとめた都市計画家チャールズ・ケリーさんと、ランドスケープ・アーキテクトのチャールズ・ブルッカーさんがポートランド流のデザインプロセスを説明した。まずプロジェクトの開始時に、関係するステークホルダーを集めて、プリンシプルとビジョンの共有を行う。プリンシプルは最初から決まっているものではない。どれが最も価値のあるプリンシプルであるかをワークショップで導き出す。プリンシプルが共有できた後に、3つのグループ、ファンクショナル(機能性)/アーバン(都市性)/ナチュラル(自然)に分かれて議論を深めていく。3グループのプロセスは、これらのFunctional、Urban、Naturalの頭文字を取って「FUN!」と呼ばれる。

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今回のワークショップの題材となったのは、都心を流れる川だ。自然環境と都市インフラを融合させるグリーンインフラストラクチャーをプランニングする環境エンジニアであるピート・ムニョースさんが、まず今回テーマとした仮想の川、K川の流域特性をガイドした。川というものは自然のプロセスに従うので急な変動が大きい(氾濫など)。都市河川では、人工護岸などにより川の自然の動きが阻害されている。その結果危険性も高まっている。水がもう少しゆっくり流下するようにすることが必要だ。ポートランドでは、屋上庭園やレインガーデンに雨水貯留するなどを行っている。スロウダウンウォーターの実現の結果、開発に焦点を充てることが可能となる。

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つづいて、都市計画家ケリーさんが、ミズベの拠点と背後の都市との関係性をアクティビティの観点から述べる。ミズベにつながるコミュニティをつくることの大切さをポートランドでの事例を踏まえて伝える。「ミズベとつながり直す=リコネクトする」とケリーさんは話した。

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さらに、ランドスケープ・アーキテクトのブルッカーさんとキャロル・ケケズさんがサイトデザインについて話した。「デザインは会話です。パブリックと共に継続的に前に進む」と述べた。分断されていたコミュニティが、ミズベのデザインによってみんなが行きたい街の中心地になる。また、人が水に触れることの観点から、水はリサイクルしていくので、川をヘルシーにすることの重要性も話した。最後にテーマとして神田川都心部にニューウオーターフロンティアのヘリテージをつくる、ニューリバーストーリーをつくることが会場に伝えられた。

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ポートランドチームPPT / ポートランドチーム紹介PPT

実際に会場のテーブルに分かれてのワークショップでは、様々なステークホルダーのカードが配られ、各自、そのステークホルダーになりきって意見・アイディアを述べるという手法で進められた。ステークホルダーには、たとえば、ニートな若者、公園緑地化の職員、経営者、医療機関、OL、高校生などが書かれてある。今回のワークショップでは3つのFUNは、グループに別れず、ひとつのグループの中でこれらの三点から議論を行った。各テーブルに置かれたマップに、それぞれのステークホルダーの視点からのアイディアをメンバーで書き込んでいく。30ほど別れた各グループのマップやアイディアは会場中央のポートランドチームに逐次届き、受け取ったアーキテクトたちがリアルタイムにスケッチに起こしていくという流れでワークショップは進行した。

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参加者たちの声

ワークショップを終え、参加者たちの反応はどうであったか。ポートランドイノベーショントークスの参加者たちのイベントの感想を以下に掲げる。

“ポートランドがいままでよりも増して、よく伝わってきた。”
女性(一般社団法人)

“前向きの連鎖、が印象的だった。はじめないと。”
男性(会社員)

“昨日もありがとうございました。貴重な機会になりました。昨日のセッションでも、自分にとってのいくつかキーワードがもらえた気がします。
・ ストーリーをともにつくり、共有すること
・ Mixed-use・super void
・ 両極を両立する“
男性(鉄道会社)

“今日、商店街の集まりがあったので先週の事の報告をしました。そしてポートランドのように町でビジョンを持ち動いていきませんか?とやわらかく提案しました。”
男性(沼津市民団体)

“むっちゃおもろかった“
男性(水都大阪パートナーズ)

“ミズベリング。国交省の藤井さんから2020年への目標についてコメント。当然川と街の関係はその後も続く。良好な関係を継続させるエンジンとしてのコンソーシアムをつくり維持していく事が大切だと言ってたかな?まさにそこだよね。イベントが主役じゃないんだよな。”
男性(水辺荘)

“やはり、水辺が変わればこんなに良くなる、のビジョンの共有は、とても重要だと感じます。ミズベリングを利用して、まずはそれを全国に広めることには、大きな意義を感じます。”
女性(行政)

“水際はわずらわしい、しかしわずらわしいからこそ多くの人が関われるし、機能性を求めすぎたからこそ都市がうちにこもりつまらない。わずらわしさ万歳!のキャンペーンでもやりますか笑”
男性(水都大阪パートナー)

“そろそろイベントから脱したいタイミング。川ろうの具体的な一歩は、水際の複雑に絡んだ諸問題、法律、既得権などの一般レベルでの共有・議論。空家とか中古市場でもそれを何年もやってきて、ようやく一般に浸透して今のレベルに来た。ワクワクだけでは変われないのはミズベリングが一番知っているはずですよね。”
男性(建築家)

“truly inspiring!”
男性(エンジニア)

“ポートランドの官民セクター間のアライアンス、というのは表現として正しくないですね。官民一体で成り立つコミュニティのあり方をドカーンと示してくれました。お見事!”
男性(大学教授)

“誰かの押し付けじゃなくて、そこにいる一人一人が“自分をしっかり出して”フラットに話し合い、共通の何かを見出す過程がとても大事なんだと改めて痛感。一つの価値観のもとに、多様な人々がそこに集まり、更に何かがうまれたら、すごくステキなことだと思います。”
女性

“Over 200 people attended (my largest audience, to date) and we talked about how Portland fosters urban community and how Japan can apply a public process to its development plans. I met so many wonderful people and I felt inspired by their energy.”
Kate Washington

この記事を書いた人

ランドスケープ・プランナー

滝澤 恭平

ランドスケープ・プランナー、博士(工学)。 「ミズベリング・プロジェクト」ディレクター、株式会社水辺総研取締役、日本各地の風土の履歴を綴った『ハビタ・ランドスケープ』著者。大阪大学卒業後編集者として勤務。2007年工学院大学建築学科卒業、愛植物設計事務所にランドスケープデザイナーとして勤務後独立。2022年九州大学大学院工学府都市環境システム専攻博士課程修了。都市の水辺再生、グリーンインフラ、協働デザインが専門。地元の葉山でグリーンインフラの活動を行う。

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