2015.11.04 Wed

水辺の一年 〜北海道道北を舞台に〜

水辺の一年 〜北海道道北を舞台に〜

北海道道北の猿払川を舞台に、川とそれを取り巻く生き物に焦点をあて、水辺の一年を紹介します。 春の訪れ 北海道道 […]

水辺の一年 〜北海道道北を舞台に〜

水辺の一年 〜北海道道北を舞台に〜

北海道道北の猿払川を舞台に、川とそれを取り巻く生き物に焦点をあて、水辺の一年を紹介します。

春の訪れ
写真1:フキノトウ

北海道道北の春は遅い。四月、まだ雪に包まれた大地からふきのとうが顔を出した。真っ白の雪にちょっと渋めの黄緑色がきれいで、思わず写真を撮った。

写真2:クマの足跡
この時期顔を出すのは春を待っていた植物だけでない。ヒグマも冬眠から覚める。川辺の河畔林には、雪を踏みしめたヒグマの足跡。まだ新しく、さっき川を渡ったようだ。ヒグマが生きている森にいるんだと心がドキドキしているのを感じつつ、足跡の横をそっと歩いた。

写真3:水芭蕉

この時期、雪解けで潤う水辺には一面に水芭蕉が咲く。
長く厳しい冬が終わり、命が動き出す春。まだところどころに雪の残る川辺に立つと、ひんやりした空気の中にも生き物の凛とした力強さを感じる。

 

きらめく命
写真4:夏の川

夏は最も川が輝く季節。初夏の川は太陽が力強く、木々が生い茂り、川を覆う。この時期、川に張り出した枝から落ちる昆虫はヤマメなどサケ科魚類の重要な餌になる。とりわけイモムシはかれらの好物のメニュー。こうした森からの恵みを受け、川の中の生き物たちは生きている。

写真5:イトウ稚魚

日本では北海道にしか生息していない絶滅危惧種イトウの稚魚だ。この時期、川の中をのぞくと、元気よく泳ぐイトウやヤマメの稚魚たちに会える。河畔林の樹冠は日射を遮断し、川の水を冷たく保つ。河畔林から落ちる昆虫や水底にすむ水生昆虫は、魚たちの重要な餌になる。さらに、河畔林から落ちる落葉落枝は、水生昆虫の重要な餌や巣作りの材料となる。水中の倒流木や植物は、魚たちの棲家や休息場、避難場になる。このように、生物が生きている空間を形作っているあらゆるものが、かれらの成長を助けてくれる。

 

秋色の水辺
写真6:サクラマス

夏から秋にかけてはサケ科魚類の産卵期。産卵のために川にかえってきた魚たちで川は一気に活気づく。海を経験し大きく成長したサクラマスは、鮮やかな婚姻色を身にまとい、威風堂々かえってくる。

 

冬の気配
写真7:秋の川

秋になると、川のある風景は少し哀愁を帯び、徐々に冬が近づいているのを感じる。

 

静寂
写真8:冬の川

しんと静まる気温 -15℃の冬の川。ときどき、パキッという乾いた木の音がきこえる。生き物の気配がなくなり、空気や風、陽の光が主役になるこの時期、森を流れる川は神聖な空気に包まれる。生き物はそれぞれの場所で春を待つ。春は必ずやってくる。

 

私にとっての水辺
写真9:居場所としての水辺

水は生物が生きていく上で欠かせないものの一つである。水辺に横になり川と同じ高さで生き物をそっと観察していると、体も心もスッと溶けて、自分も川の生き物の一員になった気持ちになる。私にとって「水辺」は、体も心も解放されて““そのまま”でいられる居場所。

ヒトも生き物。川と森がつなぐ水辺は、あらゆる生物・無生物が関わりあう原点である。

 

Writer's Profile
鈴木享子
東京大学大学院農学生命科学研究科博士後期課程に在籍。小さい頃から自然が大好きで、生命の仕組みや生物と環境の関係性に興味を持っていた。大学で生物学を専攻する中で生態学、とりわけ森林と河川の相互作用に強い関心を抱き、大学院進学後は北海道をフィールドに絶滅危惧種イトウの生態について研究してきた。現在は、生物の生活史多様性や生活史戦略について理解を深めるとともに、広く「生き物がそれぞれ適した環境で生きること」や「他種・他個体とともに生きること」についても考えている。

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