2014.04.04

桜というマジック

桜が日本人にもたらす特別な力。それは公共空間を一変させる力でもあります

桜の季節がやってきます。そわそわしているひともいるのではないでしょうか?皆さんはどこで桜を楽しみますか?
公園で楽しむ人、川で楽しむ人。並木道で楽しむ人。山で楽しむ人。よくよく考えると、ほとんど公共の場所ですよね。

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花見と言えば、ゴザ、ブルーシートで居場所をつくって地べたで楽しむ、という人が多いんじゃないでしょうか?

桜は、私たちが普段気にもかけない公共空間をハレの空間へと変換させる魔法を持っています。桜の時だけは、公園にブルーシートを敷いてそこを楽しむことが許されます。川沿いの遊歩道には屋台が並び、そのときだけは川沿いの居酒屋が出現します。花見という口実を待っていたかのように、みんな気持ちいい屋外で仲間と、恋人と、家族と桜を楽しみつつ、公共空間を楽しみます。これほど日本の風土に根ざしたイベントが他にあるでしょうか?

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桜の下にびっしりと立ち並ぶ屋台

桜はきっかけ

普段はあれやっちゃいけない、これやったらおこられるという場所でも、なかば狂乱的な花見ができるのは、日本人が「桜だから」と寛容になるからです。日本人のなかに深く刻まれたこの桜を愛でる風習は日本書紀にも描かれています。特権階級の風習であった花見が庶民に開放されるのは江戸時代で、第八代将軍徳川吉宗は隅田川沿いに桜を植えさせて、庶民が桜を愛でることを奨励しました。ちなみに、この場所は現在の隅田公園(台東区、墨田区にある)あたりのことであり、現在でも花見の名所です。

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背景にスカイツリー。隅田川の堤は桜がつづいています。

日本人の心に深く刻まれた桜の記憶は、私たちの公共空間の使い方の可能性を浮き彫りにします。

欄干バー

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横浜市の長者橋の欄干で夜桜を楽しむ人々。

桜は普段見慣れた橋の使い方も一変させます。ここの欄干は幅が30cmぐらいあるので、まるでバーカウンターのような使い方をしています。いわば即席の欄干バーです。

花見ができる即席社員食堂

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普段は営業車が駐車するスペースが社員食堂になっている

会社の人同士でこれほど親睦が深められる場所もありませんね。道行く人々もうらやましいいと感じているはず。この会社の毎年恒例のイベントです。

植え込み居酒屋

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植え込みの段差に腰掛けて川を眺めながら花見をする人々

普段なにげなく思える段差が座席になります。桜の木の植え込みの段差に座っています。ここは駐輪場でもありますが、夜は自転車も少なくなるのでこういうことができるのです。頭上の提灯のおかげで、灯りもきちんとあります。

堤防ソファー

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隅田川の堤防。高さが当時の基準で作られているので絶妙。
上につけられたステンレスの格子は現在の基準にあわせるために延長されたのだろうか?

堤防の高さが絶妙だと、こういう使いかたもできるんですね。この堤防の高さはだいたい80cmぐらい。この事例は、そのすぐ下にビールケースで座面をつくると、堤防が背もたれにる、というケース。
このビールケースは堤防の反対側で営業している町内会の出店が用意したもの。堤防も角が丸まっていて座り心地がよさそうです。町内会のひとに伺うと、堤防の上で出店を営業するのはここ30年ぐらいつづけているんだという。

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絶好のロケーションの出店は、町内会が運営している。

桜バックの撮影スポット

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言問橋の数ある桜の記念撮影スポットで人気だったのは、スカイツリーではなく実はココ

絶妙な高さの桜。桜の木をバックに写真を撮ろうとすると、幹があるので、背景に桜を写すのは実は難しい。できれば背景すべてが桜であってほしいものだが、ここはそんな夢を実現してくれる場所。ここは川を横断する橋の上。橋の高さは河川敷より高いので、河川敷に生える桜の枝振りの部分がちょうど橋の高さにくるので、背景がすべて桜、いわゆる桜バックが実現する。

雨がかからない絶妙な出店場所

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出展者の向嶋墨堤組合は、向島の料亭の組合なんだそうです。

桜の季節だけあらわれるこの茶屋は絶妙な場所につくられています。隅田川のすぐななめ上を首都高が通っていますが、その下にお店をつくるとは。雨のことを考えなくていいのがいいですね。高速道路の工事の足場に提灯ついてますし。

リバーサイドのオープンカフェ

川沿いにならぶ屋台

海外に旅行に行ったりすると、オープンカフェの気持ちよさに感激したりしますよね。日本もこうだったらいいのになあと思える風景も、この日ばかりは実現してしまいます。それが桜マジックです。
水辺のまちづくりのイメージは、こういう感じではないでしょうか?多くの人が桜を楽しみつつ、実は公共空間を使いこなしています。

花見をしたい人々の思い

使いこなす側がどういう意識で場所を使うか、ということがその場所のあり方を決めるという面があります。利用者は花見をしたいという思いしかないかもしれませんが、結果的に公共の使い方の広げているともいえるのです。
花見したいという思いが強いことで、普段は許されない公共空間の使い方も(イベント的かもしれませんが)可能なのかもしれませんね。ここには、川の使いこなしのヒントが隠されているように感じます。

まちの人々の思い

私は、横浜の大岡川の桜祭りのお手伝いをここ数年やっています。
全国の桜祭りは、地域の町内会組織、運営委員会や市町村の観光協会のような組織、公園の管理団体、地元の経済団体などの組織によって運営されています。どこにどういう屋台を配置するか、どういうイベントを行うかなどは、こういう団体がいなければ円滑な運営はできません。提灯を吊るしてライトアップしたり、ガードマンを配置したりするのはこういった組織が行います。

こういった人々は、まちへの奉仕の気持ちで桜を楽しんでもらうために準備をしています。まちが盛り上がるため、多くの人がここの場所を好きになってもうため、手弁当で準備をしてくれるのです。こういう人たちの思いがなければ、私たちは桜を楽しむことはできません。公共空間を使いこなすためには提供する側にこういう人たちが必要なのですね。
使いこなす側と提供する側ががっちり手を組んだら、こういう公共空間の使いこなしが可能になる。花見というのはそういう実例でもあるんじゃないでしょうか?

今年も桜の季節がやってきます。みなさんも花見をぜひ楽しんでください。

大岡川の桜祭りの情報はこちらから。

第22回大岡川桜まつり

開催日 2014年 4月5日(土)〜 4月6日(日)
ぼんぼり点灯期間 2014年 3月22日(土)〜 4月13日(日)17:00~24:00(予定は変更になる場合がございます)

大岡川桜まつり

写真で紹介した台東区の隅田公園のお花見については

隅田公園桜祭り

写真でご紹介した墨田区側の隅田公園のお花見については

墨堤さくらまつり

この記事を書いた人

ミズベリングプロジェクトディレクター/(株)水辺総研代表取締役/舟運活性化コンソーシアムTOKYO2021事務局長/水辺荘共同発起人/建築設計事務所RaasDESIGN主宰

岩本 唯史

建築家。一級建築士。ミズベリングプロジェクトのディレクターを務めるほか、全国の水辺の魅力を創出する活動を行い、和歌山市、墨田区、鉄道事業者の開発案件の水辺、エリアマネジメント組織などの水辺利活用のコンサルテーションなどを行う。横浜の水辺を使いこなすための会員組織、「水辺荘」の共同設立者。東京建築士会これからの建築士賞受賞(2017)、まちなか広場賞奨励賞(2017)グッドデザイン賞金賞(ミズベリング、2018)

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