2014.03.19 Wed

ロンドンの若手イラストレーターが
渋谷川を描いた

ロンドンの若手イラストレーターが<br>渋谷川を描いた

はじめて来日したティム・スマートが、意外にも魅せられてしまったのは、東京の裏街をひっそりと流れる渋谷川だった。

人気イラストレーター、ティム・スマートが渋谷の裏街に流れる川を探訪しスケッチ。そこで見つけたものとは?

ロンドンの若手イラストレーターが
渋谷川を描いた

ティム・スマート(Tim Smart)は史実からおとぎ話まで、さまざまな物語を言語を使わずにイラストで描き出すことをテーマとしている。ロンドン芸術大学キャンバーウェル・カレッジ・オブ・アーツ・アンド・デザインを卒業後、雑誌や書籍での制作を中心に活躍している若手イラストレーターである。はじめて来日した彼が意外にも魅せられてしまったのが東京の裏街をひっそりと流れる渋谷川だった。東京都内でもその存在を知る人はごく少ない、ある意味で忘れ去られた都市の小さな水辺である。ロンドンでもない、パリでもない、東京の水辺に英国人イラストレーターは何を見つけたのだろうか。

image2振り向けば水辺。しかし振り向く人はほとんどいない。

ティム・スマート(Tim Smart)がはじめて日本に来たのは2013年4月。トーキョーワンダーサイト(TWS)が運営する外国人アーティストの滞在プログラムに選ばれ、約1ヶ月間にわたり青山にあるTWSレジデンスに滞在し作品制作を行った。都市に暮らす人々とそこに生まれるさまざまなストーリーに興味を持つ彼が題材に選んだ街は渋谷。いまやスクランブル交差点からきゃりーぱみゅぱみゅまでジャパニーズ・ポップカルチャーを通じて世界の若者に影響を与えている街だ。彼は渋谷の街を歩き廻り、店舗や裏道を探索し、スケッチを繰り返していくうちにあることに気付いたという。彼の興味を引いた場所は、偶然にも暗渠となっている渋谷川のルートと重なりあっていたのだ。こうしたスケッチの結果、彼は渋谷川シリーズという一連のイラストレーション作品を作り出すことになった。
本記事では、ティム・スマートにインタビューを行い、日本の文化、都市、川に対する印象を聴き、外国人アーティストの視点を通して見える風景について考えた。本人が日本滞在時に制作したイラストを交えながらお楽しみください。

彼のイラストには通常説明文は付きませんが、WEBマガジンであることを考慮し、今回は特別に短いコメントを付けてもらいました。
まず日本の最初の印象を聴かせてください
今回の日本への旅は、自分にすごく大きな影響を与えたと思う。人生観が変わったと言ってもいいくらい。ヨーロッパ人とは異なる日本人の生き方に非常に深い興味を持ちました。それは伝統的な意味も現代的な意味も含めてね。いままでの自分の人生で探し続けていて見つけられなかったものが日本で見つかった感じがしているんだ。

image3小さな陶器店の店先で皿を見つめる女性

へー、素晴らしいことですね。もともと日本に興味があったのですか?
一般的な意味ではあった、と言った方がいいかな。遠く離れた異国だし、なんとなく憧れがあるし、日本のカルチャーは人気あるし。いつか行ってみたいとは思ってました。でも実際に行ってみたら何か本当にいままでとは違ってピンとくるものがあったのです。

image4渋谷では、渋滞する道のうえにまた道

また日本に来たいと思いますか?
いま、どうすればまた行けるか考えているところ。本当に。

image5飲食店の外で気分が悪くなってしまった友人を助ける男性

次回日本に来たら何をしたいですか?
ひとつはスケッチブックを持って東京以外の地方の方に行って日本の人々の歴史について探求してみたい。もうひとつは、また自転車で東京を走り廻り、この都市とそこに暮らす人の暮らしをもっと描き出してみたい。描画というものはぼくにとっては単なる絵というだけではなく、描く対象を理解し、探求するための方法論なんです。外国人アーティストの視点を通して現代の東京の物語を紡ぎ出してみたいと思っています。

image6深夜3時。起きているのは店員だけ。

では渋谷川の話題に移ります。渋谷川の最初の印象を教えてください。
最初は渋谷川の存在は知らなかったんです。でも街を歩きながらスケッチをしていてあることに気がつきました。無意識に描いたほとんどすべての絵が渋谷川のルートに絡んでいたんです。それで、すぐに自転車を借りていままでのルートを遡ってみた。すると川の存在がはっきり見えてきて、同時にいまではほとんど忘れ去られた川だということも判ってきた。さらに取材を行って、スケッチを制作したものが今回の渋谷川シリーズです。

image7都市住民の生き様は積み重なった紙のよう。今宵、何百万という小さな物語のページがいっせいに開かれる

描いているうちに川の印象は変わりましたか?
最初はイラストの題材探しをするつもりで川沿いを探訪していたんです。ただ、いろいろ調べたり考えたりしているうちに、この川が渋谷という街の構造に非常に大きく影響していることが判ってきました。この街で暮らす人の移動ルートは、ほとんどが川のルートと関係しているんです。だけどそれを意識している人はすごく少ないんじゃないかな。とにかくとても刺激があり、インスピレーションを受ける滞在でした。

image8深夜、港の近くの川沿いにて。本をはたいて店じまいの準備をする定員。

ところで、いままで探していたものを日本で見つけた、言いましたが、それはなんだったのですか?。
自分でも正確にはまだ判らない。でも、たぶんヨーロッパや英国の社会が失ってしまったものがまだ残っているんじゃないかな。それは人の繋がりだったり、気遣いだったり、信頼だったり。そういうものが日本には残っていて、文化の中に組み込まれている感じがしたんです。もしかすると英国にも昔はあったもので、ぼくは懐かしさを感じているのかもしれないな。
なるほど。普段日本を見慣れてしまっているとなかなか出ない感想だね。外国人の視点というのはときとして非常に新鮮です。今日はありがとうございました。

image9港近くの川沿いの通りの風景

インタビューを終えるにあたり、もう少し突っ込んで日本の良さとは何なのか聴いてみたいとも思った。しかし、一方でこれ以上掘り下げてしまうのはちょっと野暮な気もした。なぜならそろそろ外国人の物差しではなく、ぼくら自身の物差しで日本の良さを探し出す時期にきているんじゃないかと思えたからだ。
東急電鉄などの発表によると、渋谷川と渋谷駅周辺は大規模再開発が予定されているそうだ。川を塞いでいる暗渠(蓋)も一部取りはずされるらしい。かつて渋谷川をコンクリートで塞いでしまったものは、経済性や効率性を追い求める価値観であった。それは広い意味での西洋的近代主義であったといっても間違いではないだろう。一方、新しい街はそれとはひと味違う新しい価値観を打ち出してくれるだろうか。それともこれまで通りの大量集客、大量消費を追求するものになってしまうのだろうか。そろそろ日本ならではの価値観(それが何かはまだ判りませんが)を打ち出してほしいものだ。彼がまた東京にやって来たとき、「やっぱり東京はいいね。ロンドンにはないものがあるから。」と言ってくれることを期待したい。

Tim Smart WEBサイト(英語のみ)
渋谷川シリーズのイラスト

Writer's Profile
井出玄一 /GenIde
一般社団法人BOAT PEOPLE Association 代表理事

ロンドン芸術大学 CCWカレッジおよびロンドン・カレッジ・オブ・ファッション 国際事業参与
公益財団法人リバーフロント研究所主催の”水辺とまちのソーシャルデザイン懇談会”コメンテーター
プラントエンジニアリング会社、店舗開発、地域振興系シンクタンクなどを経て現職。
川から日本がカワることを目指しています!ミズベリングはカワリング!
BOAT PEOPLE Association

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