2014.03.12

水上のゲレンデ
~吹雪カヤックツーリング~

~吹雪カヤックツーリング~

水上のゲレンデ

冬のアウトドアは、必ずしも雪山にあるわけではない。
季節がある町では、同じ景色もガラッと変わる。
たとえば、吹雪く都市の水上を進んでみたらどうだろうか?
僕にとってのゲレンデは、この横浜という街に1年に1、2回だけ生み出される。

①ゲレンデへ

普段シーカヤック教室を行っている帆船日本丸より出発

吹雪の中、マリンスポーツを行う。きっと気でも狂ったか、そう思われる人も多くいるだろう。
それは、マリンスポーツが「夏」を連想させるから。
でも僕は、夏には夏の、秋には秋の、冬には冬の水遊びがあることを知っています。
特に冬のマリンスポーツに最もふさわしいものが、このシーカヤック。

シーカヤックとは

シーカヤックの始まりとなる「カヤック」とは極北の文化から生み出されてきました。アラスカ・アリューシャン列島・グリーンランド。ここがカヤックの創造された地。もともとは生きていくための狩猟装具。これを遊びや旅の舟へと変化したものがシーカヤック。

③シーカヤック全図

下半身がコクピット(操艇部)内へすっぽりと同化し、カヤック(下半身)と人間(上半身)が一体となり、パドルが手の延長となることで水辺を旅する最高の形態へと変態する。
また、コクピット前後に備わるハッチ(黒いフタ)の中に荷物(水・食糧・キャンプ道具など)を積め、何日も無人島をトリップしていく。

いざ出発(みなとみらい→子安)

そんな歴史に思いを馳せながら、雪を待ち望み集まった3人の男たち。
いつも通り支度を整え、いざ水上へ。
普段漕いでいる景色も、がらりとその表情を変える。

④3名の志士

吹雪でも集まった3名(筆者は撮影者)。全員雪山はめっきりご無沙汰。

街は雪化粧、されど水上は冷たく凛とした姿で揺らめく。
真っ白で視界不良、いつも対岸に佇むベイブリッジは見えず。どこかで汽笛がボォ--と鳴る。

⑤ホワイトアウト気味

正面に見える瑞穂埠頭のアメリカ軍基地もうっすらと見える程度。右手に見えるはずのベイブリッジは霧の向こう。
※2014年2月8日当日は気温-1℃・水温6℃

子安の浜から未開の川へ

頬に当たる雪にめげず顔は行き先を見つめ、少し漕ぐと「子安の浜」が見えてくる。
ここは昔の海岸線。変わらない景色を岸に残し、上空は高速道路(首都高速神奈川1号横羽線)。景観を損ねるという意見もあるだろうが、この下なら雪に打たれない。

⑥子安の浜

漁師たちの船(漁船・屋形船)が係留してある浜辺は昔の海岸線。
ちょうどレンガ造りの新浦島橋の撤去作業が始まっているところ

「子安の浜」の1番北から「入江川」という川が続く。
「入江川」の入り口は船がたくさん係留してある。きっと「子安の浜」の住人たちのものだ。川の通航は自由だが、藪に覆われた洞窟の入り口のように行く手を遮っている。係留で入り乱れるロープを上手く交わすと、すぐ国道15号→京浜急行線→JRの高架下と続く。

⑦入江川入り口突破

蜘蛛の巣のように張りめぐる係留ロープを交わし入江川へと入る。

高架下群を抜けると、海沿いの漁師町から川岸の住宅街へと景色は変わった。
ここから入江川の全容が明らかになってくる。

⑧高架下抜けると

入江川を漕ぐ筆者。100年前の飛行機乗りのような格好と冬のカヤックはよく合う。

小さな探検(入江川)

入江川河口近くには「一ノ宮神社」という神社があり、毎年僕らは「初詣漕ぎ」と称しこの近くまで漕いで参詣する。昔から続く子安村の鎮守なんだ。
このように水辺と神社は密接な関係を持つ。

⑨一ノ宮神社

初詣をするカヤックチーム。アウトドアウェアでの初詣をする集団を神さんはどう見てるのか。(2013年1月撮影)

さて、住宅街の中を流れる川。大雪の日、ここにどんな役目があるのだろうか。
住民たちはせっせと雪掻きをしている。その捨て場がこの川だ。
そのため、上から雪掻き爆弾の投下があるのだ。
溜まりに溜まった雪たちが降って来る。直撃したらその衝撃は想像を絶するものだ。
こちらも「ここにいるよ」と主張をしなければ気づかずに被爆するかもしれない。
住民たちは気づくと呆れた顔で僕らを見下ろす。

⑩爆撃地帯

神秘的な非日常空間に目を奪われていると、日常的な住宅街であるということを忘れ雪玉の爆撃を受けかねない。

この川を遡るにつれ、川岸と水面の高さが徐々に大きくなり、さらに川幅は細くなっていく。ついさっきまで川岸に登れそうな高さであったが、こんなに隔たりがあると町とは異次元となる。

⑪川岸は遠く

だんだん道路から遠くなる。川の入り口近くでは歩いている人から声をかけられたり変な目で見られたりしていたが、この高さだと僕らの存在にまったく気づかない。

JR横浜線「大口駅」を過ぎるともうこれ以上の侵攻を阻む川幅の狭さである。
川底と舟底が擦って座礁し戻ることは多々あったが、川幅が狭くて断念することは初めてだ。
Uターンのため少し広くなったスペースを利用する。

⑫折り返し地点

もうこれ以上侵攻するとUターンの望みがなくなりそうな予感。

さぁあとは戻るのみ。
途中、先頭を漕ぐカヤックの隣を何かが水中に潜っていった。
きっと魚を獲りに潜った鵜であろう。
ただ、あんなにクルッと潜っていくのか。アザラシと間違えてしまうほどだ。

⑬入江川を戻る

この距離である生物(おそらく鵜)を確認。手がかじかんでいなければ捜索活動したかった。

そんな探検から帰還。カヤックを岸に着ける前に、ふと視線を感じる。
この真冬に向日葵が咲いている。ここでは夏に満開の向日葵が子供達のカヤック体験を見守っているのだが、まさかの満開。(といっても小っちゃい)
きっとその前の週は気温20℃近くまで上がったからだ。功を焦ったな、向日葵くん。

⑭真冬の向日葵

この冬の変わった気象を物語る。今年の夏ももちろん咲いてくれるのを期待している。

ようやく到着。
カヤックを本来は真水で洗うのだが、降り積もった雪で洗ってみる。
暖を取り家路へ着く。大都市の陸上交通網はすぐ麻痺するから、吹雪がひどくならない内に退散だ。
夜行バスで雪山へと遊びに行くより、よっぽど手軽で身近なゲレンデ。みなさんもぜひ新たなゲレンデである水辺をこれから発掘してはいかがでしょうか。

⑮今回のシュプール

今回シーカヤックで通ってきた入江川から子安の浜にかけての周辺地図。

町に近い水辺も季節によって姿を変える。
これだから探検に終わりはない。

この記事を書いた人

水主(櫓や櫂による舟の漕ぎ手・「かこ」と呼びます)

NPO法人 横浜シーフレンズ理事(日本レクリエーショナルカヌー協会公認校)
帆船日本丸記念財団シーカヤックインストラクター
水辺荘アドバイザー
横浜市カヌー協会理事

糸井 孔帥

東京海洋大学大学院(海洋科学)在学中に、東京や横浜で海や港のフィールドワークをシーカヤックを通して学ぶ間に街中の水辺の魅力に引き込まれ現在に至ります。 大都市の水辺は、多くの旅人が行き交い賑わう場所で、また自然と対峙するアウトドアでもあります。 水辺をよく知ることが、町や歴史や国を知り旅の深みを増す契機となり、 また水辺の経験により自己を顧みる機会となります。 日本各地において水辺の最前線で活動しているプレーヤーの紹介を通して、水辺からの観光、地元の新たな魅力、 水辺のアウトドアスポットに触れる機会を作っていきたいです。 シーカヤックインストラクター(日本レクリエーショナルカヌー協会シーシニア)、一級小型船舶操縦士、自然体験活動指導者(NEALリーダー)。趣味は、シーカヤック・SUP(スタンドアップパドルボード)スキンダイビング・シュノーケリング・水中ホッケー・カヌーポロ・ドラゴンボート、そして島巡り旅。

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