2017.02.28 Tue

現場の声を聞き続ける。水管理・国土保全局 山田邦博局長インタビュー

現場の声を聞き続ける。水管理・国土保全局 山田邦博局長インタビュー

国土交通省水管理・国土保全局の山田邦博局長に、川のこと、地域のこと、そしてミズベリングについて、さまざまなお話をお聞きました。

現場の声を聞き続ける。水管理・国土保全局 山田邦博局長インタビュー

水辺活用との出会い

――国土交通省(当時、建設省)に入られていちはやく水辺の活用を始められていたとか。

そうですね。いまとはだいぶ違うかもしれませんが、昭和40年代初頭は東京オリンピックの関係もあって、「市民がもっと気軽に運動できるように」と河川敷に運動場を作る環境整備事業が行われていました。私は昭和59年に入省し、昭和50年後半から昭和60年にかけては、ふるさとの川モデル事業やマイタウン・マイリバー事業を担当しました。最初に手がけたふるさとの川モデル事業では、いまでは驚くことではないかもしれませんが、神戸の新神戸駅の前に流れる生田川という狭い川に噴水をつくったり、高水敷に東屋を作ったりしましたね。当時は前例がなく「河川でこんなことができるんだ」と画期的だったようです。
その後は、京浜工事事務所(現在、京浜河川事務所)で総合治水を担当しました。鶴見川は総合治水で有名で、昭和55年ぐらいには既に制度が整っていましたが、新たな施策や改修をどうしていくかが課題でした。それから横浜の鶴見川遊水地を、柱構造式の国際総合競技場とあわせて整備することで、多目的遊水地にする試みも行いましたね。

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――大阪・淀川の舟運も担当されたとか。

枚方から宇治の三川合流部の民間事業者による定期航路実現を視野に入れた舟運社会実験を行いました。メディアにも取り上げてもらってかなりご好評いただいて、そこから大阪府からもかなり協力していただけるようになりました。舟運のルートは、ゆくゆくは伏見まで伸ばすことも検討しているようです。ただ、問題は、船を通すこと自体ではなくて、市民の方に定期的に乗っていただけるようにするにはどうしたらいいのかという点ですね。船にもそれぞれ魅力がなければならないし、街にも一度乗った後にも「もう一度乗ってみたい」と思ってくれるリピーターを生む要素が必要です。簡単に言うと<まちづくり>ということになるのだと思いますが、そこで持続可能な経済活動が展開する基盤がないと何事も長続きしません。

――その点で、大阪という地域はいかがでしたか?

大阪は市民レベルでの活動が非常に活発ですよね。市民が盛り上がれば、まち全体が盛り上がりますし、やみくもに国や府が事業計画を立てても上手くいくものでは決してないので、町や市民の意向とマッチしなければならないと強く感じました。

どれだけ現場で生の声を聞くかが勝負

――近畿地方整備局の堤防掃除のとき、局長は作業服で掃除道具を手に登場されて、ボランティアの人たちが驚いていたと聞きました。

皆さんと一緒に取り組むわけですから、みなさんと同じ目線に立つことが非常に重要だと考えています。それに一緒になって取り組むと、地元の人にしかわからない、いろいろな話を聞くことができます。向こうも私が局長だと思わずに、いろいろな話をしてくれます。このあたりの川は賑やかですとか、洪水になるとどうなりますとか、最近は動物がよく来ますとか。そういった現場に行かなければわからない話から、全体の課題が見えてくることも少なくありません。甲府で事務所長をしていた頃は、普通の服を着てイベントをやっていた時も、車いすの方と雑談していたら「堤防の近くまで行ってみたいですね」という話を聞いてスロープを作ったりしました。市民利用という観点からも、いろいろな方の普段の声を聞くことは非常に重要だと思いました。事務所に届くものは、どうしても「表向きのご意見」だと思うので、表面的な話にまとまっていっていきがちですからね。

――小さな声をすくい上げる姿勢や異なる意見も受け止められる寛容性は大切ですよね。つい聞き流してしまうこともあるので。

数値としての情報ではない生の声を聞くと、市民の方々との温度差や距離感、課題のひっ迫さ加減もわかりますよね。予算は限られているので、優先度の高いものから考えていくという面からも、要望書をいただくことだけより、われわれが事務所から出て行って、現場でともに活動する中でまちの人の生の声を聞くことは大事だ思います。そのためにわれわれ行政が、機械ではなく人間によっておこなっている意味があると思います。事務所長はそういうものだと思いますよ。ですから、どれだけ現場に出たかが勝負という感じですね。
いろいろな場所に行ってさまざまな声を聞く。甲府にいた頃は、当時は市町村が50以上あったので、市長さんと会うだけでも大変でした。でも、それも楽しかったですね。
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立場を越えて話し合うプラットフォームとしてのミズベリング

――ミズリングは始まって三年経ちましたが、とのように捉えられていらっしゃいますか?

河川事業の関係者から、川のことをよく知らない市民の方まで、できるだけ多くの方を対象に活動している視点は非常に重要だと思いますね。そして水辺を好きになってくれる人を増やしていく活動だと勝手に評価させていただいています。それには対象になる人の関心のレベルや分野に合わせて細やかに対応していくことが重要になってくる。市民を十把一絡げに接することも少なくない行政では対応できない部分を担っているミズベリングの活動はとても素晴らしいことだと思いますし、かなり期待をしているところです。行政からするとうらやましい部分もありますね。ですから、普段行政で働いているけど、個人としてミズベリングで活動されている方も少なくないのだと思います。たまたま仕事で培った川の知識を活かして、イベントを行ったり、仲間をつくったりして個人の思いを具現化していますよね。立場を越えて、水辺が好きな人が集える場所になっていることも魅力的な点ではないでしょうか。

――河川が公共財であることと個人の希望をかなえていくことのバランスは難しいこともありますが、ミズベリングはそうしたことも話し合えるプラットホームのようなものだと思っています。

まさにそういうことなのでしょうね。その時その時で、さまざま課題や共通の考え方があると思うし、それをできるだけ多くの人と共有できるようなプラットホームがあるのが理想ですよね。今はどちらかというと治水も利水もあるし自然再生とか自然保護という観点からも管理者が必要なものには占用という形を取っていますが、本来ならみんなが使い方を考えて、話し合って、合意をして、みんなで使う。そんな世界が理想だと思います。ただ現段階では法律上そうはなっていませんし、そうなったらなったで、いろいろな問題は出てくるとは思います。やはり、洪水も通さなければいけないし、水道の水も通っていくわけですから汚してはいけないし、市民はもちろん、魚や動物にとっても良好な水質でなければいけないと思います。公共財ですから、楽しい水辺でありさえすればいいというものではありませんが、理想とする場所を目指すということは、到達できるかできないかは別として、とても大切なことだと思っています。

――なぜできるだけ多くの人が参加して決めるということが大事なのでしょうか。

国民すべての水辺だからだと思います。原則的に公共財というのはそういうものです。
昔はしょっちゅう水害が起こっていましたので、自分の家は高台に建てようとか、船を持っておこうという意識があったと思います。しかし現代ではどちらかというと「行政がきちんと堤防を作ってくれているから大丈夫」と信じて任せてくれていますよね。もちろん実際の運用にあたって旗振り役は当然必要になってくるので、河川管理者は必要だと思います。ただ、水は人間にとってなくてはならないものなので、市民の「水意識」を高められたらと思います。
去年の関東地方はかなり渇水がひどく、もう少しで取水制限に入るぎりぎりのところでした。そういうことを一般の方は意識していないでしょう。川という事に対しても、小さな川は通勤通学の途中で見かけるかもしれませんけれど、大きな川は鉄道で一瞬渡るぐらいでどうなっているのか、今はどんな生物がいるのか、あまり意識してないのではないかと思います。そういうものもみんなの意識に上るような社会であって欲しいなと思っています。
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水辺とまちは一体の関係

――まちの中にいい水辺があると意識が向くかもしれませんね。

よく昔は河川の水質が悪くなると建物も河川から背を向けていたといいますよね。水質がよい地域の建物は河川側が玄関になるといいます。水辺とまちは一体で、まちの中に水辺があり、川もまちの一部として、どうあるべきか一緒に考えていくべきものではないでしょうか。河川管理者も、上下流や背後のまちとの関係を考えなければなりません。それには、地元の方の考え方がかなり重要だと思います。やはり地域に根付いた文化があって、それに合う川でないといつかは嫌われるのではないかと思うのです。

――水辺には経済価値はあるのでしょうか?

水辺とその周辺といったほうがいいのでしょうか、そこに経済価値があるかという事ですね。
例えば素晴らしい日本庭園を川に造ったとしても、そこにバス停もなければ電車も駐車場もなければ誰も来ない、そんなところに経済的価値はないですね。周りにバス停や電車もあっても農地などが多いなど自然があふれているところに庭園を造ってもどんな意味があるのか。
水辺だけの問題ではなくてまちとその周辺と一体となってどのような経済活動ができるのかにかかってきます。

――水辺と背後のまちを一体的に見る必要があると。

周りを無視して川だけでどうにかすることはできません。昔からそういうふうに思っていまして環境整備をするときもそうですが、川の平面図だけを持ってきてここにこういう公園を作りますと説明をしても、それではわからないといっていましたね。通常の計画図面は川とその沿川わずかのエリアがあるだけなのですけれど、水辺を作るときはもう少し流域まで含めて、どこにどのような施設があって、どのようなアクセスになっていて、本当はどこにどのような人がいるのかという事も必要です。そういう情報もないといいものはできません。
河川に関わる人と、まちづくりに関係する人の究極の目的はおそらく一緒でしょう。みんなの幸せというか、素晴らしい川を含めてまちをつくりたいという事だと思うので、よくコミュニケーションを取ることが大事ではないでしょうか。
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自己実現を実感してもらう

――職員や行政マンのモチベーションという意味では何が大事ですか?

自己実現が大事ですね。部下の方には、自分としてこれを自己実現したという事をできるだけ多く実感してもらうことが重要です。最初はほんのちょっとしたことでもいいのかもしれません。自分の作ったグラフが大事な会議で使われたという事から始まるのかもしれません。何でもかんでも上司に言われたとおりに機械的にやるより、割と自分の思いを具現化したいという方が多いように僕には思われます。
「明るく楽しく一歩前進」といっています。自分が興味を持ったことを探す、自分のやっている仕事に楽しみを見いだすということですね。例えば、これをやることによって、市民の方がこれほど幸せになるのだと、そういうことが好きであれば、そういう方向へ行くような施策を提案するのが楽しいことなのではないだろかと思います。

――最後に局長が好きな水辺を教えてください。
ひとつめは道頓堀。水辺を利用してまちが活性化していますし、経済活動を巻き込んで自立的に機能を維持していますね。水辺空間としても、デッキがあり商業施設があって素晴らしいと思います。
私が実際によく訪れた水辺で言うと、釜無川です。韮崎という地域から見ると、富士山が中央にそびえて、釜無川が流れていて圧巻です。ほとんど家もなくきれいな水と富士山だけが広がっているという、心が洗われる風景があって、自分が無になれるような感じがします。
3つ目は、和歌山県に大塔川という県の管理している川があります。川原に温泉があるのですが、ここの温泉につかると目線が水面近くまで近づいて気持ちいいです。植物や動物と同じ目線で川が見られます。
4つ目は宮崎県にある大淀川です。宮崎市内では、朝日が川の河口から昇り、上流に夕陽が落ちるのですけれども、地元の火山灰で作ったレンガブロックが敷き詰められている遊歩道があります。南国な温かさに包まれて散歩ができて、いい感じですね。隣接して有名なホテルもありますね。
5番目は、私は名古屋出身なのですが、子どもの頃によく通った新堀川という川です。人工的に掘った用水ですが、小学校3年生くらいのときに桜の苗木を植えた経験があって、通るたびに桜の木の生長が楽しみでした。その桜と川の風景もいまでも覚えています。やはり自分が携わった経験のある水辺は特別なものが残りますね。
大淀川_橘公園(元データ)
宮崎市内の大淀川遊歩道

Writer's Profile
ミズベリング

ミズベリングとは、「水辺+リング」の造語で、
水辺好きの輪を広げていこう!という意味。

四季。界隈。下町。祭り。クリエイティブ…。
あらためて日本のコミュニティの誇りを水辺から見直すことで、
モチベーション、イノベーション、リノベーションの
機運を高めていく運動体になれば、と思います。

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