2016.07.01

鮭の町から~標津サーモン科学館で見るサケの一生~

さて、今回私が舞台とするのは、この東京川ガールの記事で以前も話題に上がっていた、北海道の標津(しべつ)町。
どこにあるの?と思った方は、日本地図をご覧ください。北海道の東端、ひょこっと飛び出た知床半島を根室海峡沿いに下っていった「付け根」の部分、そこが標津町です。
*「しべつ」の名前の由来は諸説あるそうですが、その一つにアイヌ語で「大きな川」という意味という説もあるようです。川ガールの話題にぴったりですね。

私が生まれ育ったのは埼玉県。いわゆる海なし県と言われる地元を大学卒業とともに飛び出し、
向かった先は町のあちこちで潮の香りが漂うこの町でした。

標津町は日本有数のサケ(鮭)の町。町中のいたるところにサケを感じます。
秋になれば、各家庭でイクラを浸け、鮭とばを作るために軒先に鮭を何本も干すなんて光景も当たり前です。スーパーにはサケが丸ごとごろごろ並びます。この町に居るとオレンジ色の丸いものはすべてイクラに見えます。さらには、町民には1年に1回、漁協の方のご厚意でサケがすべての家庭に丸ごと一本、無料配布される日があります。(ちなみに年に2回ホタテとバターの無料配布も行われます。)

そんな標津町には、なんと、町内に水族館があります。
その名も、「標津サーモン科学館」。サケ科魚類展示数日本一のサケの水族館です。
このマニアックなネーミングの水族館こそが、私の初めての就職先でした。

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高い展望塔の上、オレンジ色の球体が何を表すかは…もうおわかりですよね?
水の中でどんな生物がどういう生活をしているのかを伝える上で水族館はとても重要な役割を持ちます。サーモン科学館と言っても、サケに限らず、地域に生息している魚たちを海水・淡水問わずに扱っていて、標津の海や川の中を覗いているような気分になります。最近のイチオシはチョウザメですが…話が長くなりそうなのでまた機会があればご紹介したいと思います。

展示している魚たちはほぼ現地調達。定置網漁やアキサケ漁などの船に同乗させていただき、漁師さん方からお裾分けして頂くのです。(私が同乗すると不漁になると噂されたりもしましたが…愛情の裏返しだと受け取ってます。)珍しい魚が網にかかると漁師さんから連絡が入り、科学館に持ってきてくれたりもします。漁師さんのご協力なしではお客様に魚たちをお見せすることができないのです。

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また、サケの生涯を知ることができるのもサーモン科学館ならでは。メインの見所の一つである

『魚道水槽』と呼ばれる水槽では、1年を通して様々なサケの姿を見ることができます。春はシロザケの稚魚の展示を行います。きらきら輝く様子は、旅立ちを目前に控えた稚魚たちの生命力を感じさせてくれます。

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秋は長旅を終えたサケたちがふるさとに帰ってくる季節。9月には科学館の裏を流れる標津川と直接つながり、迫力溢れるサケの遡上の様子をガラス越しに見ることができます。迫力溢れるサケの遡上の様子が目の前で見られるのもなかなか珍しいのではないでしょうか。オスとメスの見分け方がわかってくると、メスのサケがつぶらな瞳で愛くるしく思えてきます…。P1130034

10〜11月にはサケの産卵行動を間近で観察できます。命がけで子孫を残そうとするサケたち。新たな生命の誕生の瞬間は何度見ても感動的であり、神秘的です。
時には昼ドラのようなドロドロした展開もあったりするのですが…それも隠れた見所です…。
産卵に適した大きさの石を集めて環境を整え、サケの様子を見て館長が産卵の瞬間が近いことを館内のお客様にお知らせするという神業があってこその展示となっています。

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楽しさや癒しを提供する場所、家族で休日を過ごす場所、地元の子供たちの放課後の遊び場としても使われている標津サーモン科学館。

サケの一生を伝えることを通して、「いのちのつながり」を、
私たちの生活において身近なサケを扱うからこそ生まれるたくさんの「人と人とのつながり」を、大事にしているのが伝わるといいなというのが、働いて感じた一番の想いです。

東京からは遠いけど、冬は痛いくらい寒いけど、人より牛の方が多いけど、訪れた人を暖かく優しく迎えてくれる、そんな標津町に、みなさまも是非足を運んでみてくださいね。

最後に…
サケとかけまして
東京川ガールの川活と解きます。
そのこころは…

どちらも川を「はなす」ことで「うみだされて」大きくなっていくでしょう。

お読みいただき、ありがとうございました!

この記事を書いた人

飯田花名子

東京学芸大学教育学部F類環境教育専攻卒業。在学中は、博物館などの展示における自然音の使われ方を研究テーマとした。卒業後は標津サーモン科学館にて学芸員補として1年間勤務。好きなサケ科魚類はサクラマス。

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