2016.04.12

地元のお父さんが企画! 河川敷で映画を楽しむ「ねぶくろシネマ」

「子どもが泣いたり、ぐずったりしても心配せずに、スクリーンで映画を楽しみたい」ーー。そんなお父さんたちが集まって企画した野外上映「ねぶくろシネマ」が、3月26日(土)開催されました。

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京王多摩川駅から徒歩7分くらい歩くと、目の前に広がる多摩川河川敷。ちょうど川を横断するように京王線が走るその鉄橋の橋脚が、映画のスクリーンになっていた。会場に到着すると、ちょうど橋脚に向けてプロジェクターで映写テストが繰り返されている最中。そして、ちょうど橋の下の芝生が観客席。奥では、暖かい飲みものやアルコール、スナックを売る屋台が立ち並んで屋台が開店し始めている。無人の本屋さん、観葉植物屋さんも出店して、蚤の市のような雰囲気が楽しい。

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三鷹の無人の本屋「BOOK ROAD」。本を選んで値段を確認、右横のガチャガチャで購入するしくみ。ちなみに本日は店長さんは近くにいらしていましたが、「映画を楽しみたいので今日も無人でいきます!」とのこと。

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柴崎のギャラリー&カフェ「ウェアハウスガーデン」はワインと燻製チーズを提供。燻製は地域で伐採した桜の木を使用したものだとか。

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子どもたちに大人気だったE.T.シナモンロールは、長野から出店したパン屋さん「ペロンタ」より。

参加者も集まりはじめてきた。家族連れや学生のグループは、寝袋の他にも簡易テントやキャンプ用のテーブルセットなどを持ち込んで、いそいそと映画を鑑賞するための席づくりを整えはじめていました。

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防寒具や温かい飲み物などで暖をとりながら、上映を待つ時間もまた楽しいですね。

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会場の電源は、こちらから。三菱自動車のアウトランダーPHEVが2台活躍しました。

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上映時間ギリギリまで、何度も入念にチェックを繰り返していた主催者のみなさん。

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植物販売の「SAVVY_PLANTS」(手前)、コーヒー屋さん「モスコアコーヒー」(奥)はともに西荻窪からの出店でした。

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夜が更けてきたので、いよいよ上映間近です。

午後6時に上映会がスタート! 主催の唐品知浩さん(合同会社パッチワークス)が登場、「子どもが泣くのを心配しないで映画を楽しみたいという親が集まって始まったプロジェクトです。今日は観客としてではなく家族として、どうか暖かい気持ちで上映を見守ってください」と挨拶。

その後上映されたのは、映画館おなじみの他作品の予告編や「STOP映画泥棒」ではなく、今回特別に企画されたビデオメッセージでした。お父さんお母さんに向けて「いつも遊んでくれてありがとう」と笑顔を見せた男の子、「10年経ったいまも変わらず愛しています」と妻にメッセージを送る人、離れて住む実家の両親に「ありがとう」の気持ちを伝える人————。知人でなくても、おもわずほっこりと笑顔になってしまう映像ばかり。

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お父さんお母さんに向けて、感謝の気持ちを伝える男の子のビデオメッセージ。

そしてとうとう本編『E.T.』の上映がスタート。橋脚に映し出される映像は、充分にクリアだ。字幕付きだったが、日本語の吹き替えも流している。7分おきに頭上を京王線の電車が走るので、セリフが聞き取りづらいシーンも出てくるけど、それが余計にセリフを聞き取ろうと映画に集中させる。中には効果音にぴったりはまる時もあって、慣れてくると面白くなってくる。参加者は寝転がったり、軽食やお菓子をつまんでピクニックしたり、寝袋や毛布で暖をとりながら、思い思いのスタイルで映画を楽しんでいました。

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名シーンに思わず啜り泣いてしまっても、野外ならそんなに恥ずかしくないという不思議。

帰り仕度をする参加者に、感想を聞いてみました。

「映画の上映中に、子どもがお父さんやお母さんに思いつくまま感想を話していたり、エンドロールでは大勢の人が拍手するなど、とてもライブ感溢れる上映でした。こういうことは、やっぱり映画館ではやはり得られない映画の良さだと思いました。それからスクリーンの背景が景色なのも、とても新鮮に感じました。多摩川の水面がすごく綺麗でしたね」(30代男性)

「久しぶりに「E.T.」を観ましたが、やっぱりいい映画ですね。子どもと一緒に観られて嬉しかったです。何より、子どもが映画に飽きたり、ぐずったりしたらどうしようと気を揉まない環境がよかった。夫は防寒しすぎたせいか、芝生が気持ちよかったからなのか、途中で寝落ちしていましたけど、それもあまり気になりませんでした(笑)」(40代女性)

「SNSでイベントを知って、今日は千葉から友だちと一緒にきました。映画が大好きで映画館にはよく行きますが、野外の、しかも河川敷で映画を観るのは初めて。寒かったけど、忘れられない体験になりました」(20代女性)

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元気いっぱいボランティアの若者たち。主催の唐品知浩さん(合同会社パッチワークス)にお話を聞きました。
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発案のきっかけを教えてください。
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もともとのきっかけは調布市の産業振興課の人たちと市民で「調布をおもしろがるバー 花火大会編」というブレスト会議を実施したことでした。 というのも、調布の花火大会には毎年3万人くらいの人が集まるのですが、そのときに「花火だけみて帰るのは、調布という土地を堪能できていないのがもったいないよね」という話になって、花火大会の昼間にワークショップイベントを行ったんです。それがご縁で調布市役所の方と仲良くなって話していたら、「映画のまち 調布」をもう少し打ち出したいという話を聞いたんです。調布には2つの撮影所があって、市は映画をつくるプロジェクトのバックアップをしているようですが、街にはもう映画館はないし、僕ら一般市民には「映画のまち」が浸透していない印象がありました。そこで、去年の10月頃に、再び「調布をおもしろがるバー」を開催して、今度は「映画のまち 調布編」と銘打って、ブレスト会議を実施したんです。
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河川敷で上映、しかも橋脚に映画を映すアイディアはどこから出たのでしょう?
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僕が以前多摩川を散歩していたときに、「あそこの橋脚に映画を写したら面白そう」ってSNSでつぶやいたことがあるんです。そのアイディアを覚えていてくれた参加者が、ブレスト会議で「唐品さんがつぶやいていた、橋脚をつかった映画上映、やってみたいよね」とおっしゃってくれて。そうしたら、その場にいた市役所の産業振興課の人も乗ってきてくださって。そこから、街頭テレビを観るように、野外で映画を気楽に楽しめる環境を整えてみようと始まりました。その10日後くらいには、調布市から河原の使用許可をもらって、実験的にプロジェクターと発電機とパソコンを持って、試しに映写しに行ったんです。そうしたら予想以上に綺麗に観れたので、そこから第一回の開催まで、約2ヶ月間で、一気に準備しました。はじめは「リバーサイドシネマ」という名前を考えていましたが、もうすでに寒い時期だったんですよね。「寒いけど、それを前向きに楽しむことができるようなネーミングがいいね」という話になって「ねぶくろシネマ」になりました。名前が決まると、みんなさらに本気になりましたね。具体的なイメージが湧いてきたのだと思います。
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現在、クラウドファンディングで寄付金を集めていらっしゃいますよね。目的と目標を教えてください。(Mothion Gallery:「星空の下、橋桁をスクリーンに寝袋に包まり映画観る「ねぶくろシネマ」を全国各地に!」)
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野外映画で一番お金がかかるのはスクリーンなんです。風で倒れないように足場をきちんと組むとなると何十万円もかかってしまう。そうなると、1年に気軽に何回も開催とはいきません。気軽に開催したいから、なるべくコストはかけたくなかったんです。そこで考えた時に、最適だったのが、橋脚や学校の大きな壁だったんです。実際に使ってみて、全く問題ありませんでした。それに、そもそもどこの地域にも、使われていない橋脚や廃墟とか学校の壁とか、”使える場所”がたくさんあるので、ポテンシャルを感じました。月や星空の下で「E.T.」を観たり、飛行場で「トップガン」みたいな飛行機の映画を観ると、特別な映画体験になりますよね。調布市だけじゃなくて、”場所に合わせた映画を観る”という鑑賞スタイルを各地に広めて、有休空間をもっと活用してもらうために、クラウンドファンディングを始めました。今後も「ねぶくろシネマ」は調布を拠点に続けていくつもりですが、他の地域でも同じように野外映画を開催しようと思うと、機材のレンタルが割高なのがネックになります。せめて、我々が最適な機材を買って安く貸し出すことができれば、他の地域でも気軽に始められるのかなと思っています。
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今後は「映画の街・調布市」発祥の<ねぶくろシネマ>を全国に広げていくという活動も行っていくということなのですね。今回の予算は、どのように準備されたのですか?
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1回目は調布市の補助金をいただいて、運営しました。今回もいただいていますが、協賛も入っています。機材の貸し出しもご提供いただいているので、持ち出しなしでまかなうことができました。
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「自分の地域でもやってみたい」と思った時に、一番ネックになるのは、河川敷の使用許可と上映作品の貸し出し手配だと思いました。前回の「幸せのパン」、そして今回の「E.T.」は、どのように手配をされたのですか?
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映画会社から直接にお借りしたり、映画作品を上映会用に貸してくれる仲介会社を使ったりしています。野外上映やカフェで上映したいときに、配給会社との間に立って作品貸し出しの仲介してくれる業者があるんですね。場所と人数、イベントの有料か無料かによって、値段は変わってきますので、一概にいくらとは言えないのですが。
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映画会社との交渉は大変そうなので、費用はかかっても、仲介会社の存在は初心者には心強いですね。ちなみに、作品はどのように選ばれたのですか?
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調布はファミリー層が多く住んでいるエリアですし、自分たちが子どもを持つ親なので、親子で楽しんで観られる映画にしたいと思いました。さらに野外という環境を活かせる映画って何だろうと考えたときに出てきたのが「E.T.」でした。
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まるで映画の中に入ったかのような上映会場で場所とマッチしていましたよね。帰りに、橙色の満月が出ていて、知らない女性から、「あそこに「E.T.」みたいな満月が出てるんですよ、ほら」って声をかけられたのが、嬉しかったです。ちなみに、今回お客さんは、何人くらい集まりましたか?
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400人くらいですね。ボランティアの人は、FBページで公募したら、地元の人から都内からも集まってくれました。
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ところで、河川使用の許可取りはスムースにいきましたか?
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この会場は、橋の下が京王電鉄、グラウンドの芝管理が調布市、川に向かって右側が野球場、左側がサッカー場で調布市が管理しています。さらに、橋とグラウンドの間が国交省の管轄です。複雑に聞こえると思いますが、今回は、調布市が窓口になってくれたので、比較的スムースにいきましたね。もともとはじめから調布市の産業振興課と一緒に開催していたことが大きかったと思います。また、このサッカー場のエリアでは毎年「もみじ市」が開催されていることからも、この場所でのイベント開催の前例があったことも、調布市からすると違和感は少なくハードルは高くなかったのかもしれません。
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そのほか、大変だった点はありましたか?
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今回は、車の電源で映画を映すという初の試みを行いました。前回は発電機を使っていましたが、音が気になるし、ガソリンを使うので取り扱いが大変。別の方法はないかとメンバーの中で探していたところ、クルマを電源に映画を上映するCMを思い出して、「車借りれないかな?」とまたSNSでつぶやいたら、友人を通じて、三菱自動車さんからご返答いただき、トントン拍子で貸していただけることになりました。今回、三菱自動車のアウトランダーPHEVという車を二台お借りしました。1台は映画用、もう1台は屋台用です。計算上では1台で事足りる計算でしたが、実際に本当に電源が足りるのかわからなくて、心配でしたね。事前に実験することもできなかったので。実際、当日は障害が発生して、上映時間が10分ほど遅れてしまいました。でもその間に上手い具合に日が落ちてくれたので、怪我の功名でした。三菱自動車の方には現地にも来ていただいていていたので、すぐにアドバイスを受けて対応することができました。
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SNSを活用して準備されてきたのですね。そして今回初のビデオメッセージも、地域色のある新鮮な試みでした。
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イベントって関わる人が多ければ多いほど盛り上がると思うんです。イベントにある種の思い入れを持って遊びにくる人が増えるといいなあと思ってビデオレターをやりたいなと思いました。それが意外にもおもしろくて。子どもが画面に出てくるとほっこりしますよね。地元の人も外から移住してきた人も、調布市にはどんな人がいるのか、市民の顔が見えますし、メッセージを送った人・送られた人はその体験が深く思い出に残るのではないかと思います。撮影は、スマートフォンのおかげで、かなり解像度がよくなっているし手頃に撮影できるようになりました。映画の上映も撮影も、今後はもっと身近になっていくのではないかと思います。
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今後の課題はありますか?
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今回ようやくタイトルにあわせて作品を上映できたました。出店してくれたお店の人たちも、「E .T.シナモンロール」など、映画にちなんだ品を販売してくれて、一体感がありました。反省点は、衣装をあわせてみるとか、イベントならではの仕掛けや演出をもっとできたのではないかなという点ですね。
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次回の上映はいつですか?
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次は4月16日(土)湘南 T-SITE(蔦屋書店)で「スタンド・バイ・ミー」を上映します。車を展示しながら、それにあわせた本を展示するカレージみたいな建物があるんです。そこを半野外として使わせてもらって、上映します。あの地域もファミリー層が多いので、子どもと一緒に観たい映画を選びました。
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まさに「ねぶくろ」が印象的な映画ですね。次回も楽しみにしています。

この記事を書いた人

編集者・ライター

鈴木沓子

新聞社を経て独立、主にアートやメディア、都市の公共性をテーマに、編集・執筆・翻訳をおこなう。愛車SURLY パグスレーで、川沿いや浜辺など水辺ライドをゆくのが楽しみ。共訳書に『海賊のジレンマ』(フィルムアート社)、『BANKSY YOU ARE AN ACCEPTABLE LEVEL OF THREAT【日本語版】』(パルコ出版)、『BANKSY’S BRISTOL Home Sweet Home』(作品社)など。

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