2015.06.03 Wed

橋の下でしか味わえない! 街と水辺が奏でる音楽を楽しむ“舟遊び”があります。

橋の下でしか味わえない! 街と水辺が奏でる音楽を楽しむ“舟遊び”があります。

東京・日本橋川をゆっくり進む舟に乗って、水辺の景観を眺めながら、クラシック音楽に耳を傾けるーー。
「水辺」と「都市」と「音楽」が響宴する、この季節にぴったりの“舟遊び”を体験してきました。

橋の下でしか味わえない! 街と水辺が奏でる音楽を楽しむ“舟遊び”があります。

都心と水辺を「音」で楽しむ
非日常感満載の舟遊び

「音楽家と一緒に船に乗り込んで、デッキの上で楽しむコンサートがあるらしい」……という話を聞いたときに「気持ち良さそう!」と胸が躍りましたが、スタート場所が日本橋の船着場と聞いて、「演奏はちゃんと聴けるのかな?」と少し心配になりました。場所は、日銀や三越本店が立ち並ぶ、都心の中心部。頭上には首都高が走っているので、決して静かではないエリア。チラシを見てみるとイベントのタイトルは『名橋たちの音を聴く』……? ますます謎が深まりましたが、気持ちよく晴れた土曜日の朝、船に乗り込みました。
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30人乗りのクルーズ船のオープンデッキが、本日のステージ&観客席になります。

同乗する音楽家の方々は、辻康介さん率いる三人の声楽隊。披露してくれたのは辻さんのオリジナル曲『集まったのは川の上』。そして10世紀頃のグレゴリオ聖歌やルネサンスからバロックにかけての声楽など、古いヨーロッパの歌曲の数々が気持ちよく川面を流れていきます。時折強い川風に吹かれても乱れない歌声とハーモニーはさすが!もちろんその合間に救急車の音をはじめとする街の喧噪や、カラスの鳴き声なども飛び込んで来るのですが、その「都市の音」とも自然にセッションしているような演奏も、おもしろい。

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左:辻康介(声楽・語り/声楽家)、中央:阿部大輔(バス/バリトン) 、右:福島康晴(テノール)

そして船が橋に近づいていくと、音に変化が現れてきます。ちょうと橋の下に入る直前、そして入った瞬間と、明らかに音が変わっていくのがわかります。それは橋や首都高がちょうど天井のようになって、すぐれた音響効果を発揮して、即席のコンサートホールへと変身するから。「音の風景」から環境や文化を研究するサウンドスケープの専門家で解説者として同乗した鳥越けい子先生(青山学院大学教授)の話によると、江戸時代には、橋のほとりに立って、往来の人々の言葉を聞いて「橋占」という世相占いがあったとか。ほかにも芸者を呼んで船上で音楽や踊りを楽しむ舟遊びがあったりと、水辺で音を楽しむ文化が根付いていたそうです。
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ここは江戸橋の下。鉄製の橋なので、石の日本橋とはまた違った響きがある。

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音の環境文化学、環境美学、音・音楽とまちづくりが専門の鳥越けい子先生

明治時代に水際から花開いた
新しい都市計画と文化開化

この日本橋エリアは特に、重要文化財の日本橋をはじめとして、浮世絵『名所江戸百景』にも登場する江戸のシンボル・江戸橋、明治のはじめに江戸城常盤橋門の城壁を壊した石を使って作られた常磐橋、そして川沿いには、野村證券ビル、三菱倉庫ビル、日証館、日銀本館などの建築物が並びます。江戸時代には蔵が連なっていた日本橋川の川沿いに、ヨーロッパの建築デザインを源流とするさまざまな建築様式の建物が建ち始めたのは明治時代に入ってからだそう。日本の近代経済を立ち上げた渋沢栄一は、日本橋川をイタリアのベニス運河に見立てて、日本橋川のほとりにベネチアンゴシック様式の自邸を構えていたそうで、今よりもっと水辺と街の関係が豊かだった時代の名残りを感じました。

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「江戸の都市計画で出現した日本橋川、そしてそこから始まったヨーロッパの伝統的な意匠を用いたまちづくり期を経て、高度成長期に入ると東京オリンピックに向けて経済的な合理主義へと移り変わって行く、そのわかりやすいいくつかの価値観の移り変わりが目に見える建造物の層となって現存しているのが、この日本橋だと思います」。そう話してくれたのは、このイベントを主催した「都市楽師プロジェクト」主宰の鷲野宏さん。「日本橋の空を覆う高速道路が都市景観の問題として議論されていますが、音という切り口が日本橋の都市環境について考えたり、何かを感じてもらえるきっかけになれば嬉しいですね」。

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「都市楽師プロジェクト」主宰・鷲野宏さん。

本日のコンサートは、ヨーロッパのデザイン様式を取り入れた日本橋をモチーフに、ルネッサンスからバロック期のヨーロッパ音楽を選んだり、都市の音の響きとあわせて選曲された10曲近くを披露してくれました。はじめに心配した演奏の音が聴こえないのではという心配も杞憂に終ただけでなく、環境によって変わる音色の多彩さを満喫!

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場所は「日本橋の景観を台無しにしている」と問題視される首都高真下の日本橋川でしたが、その空間をプラスに活かして、まちづくりや都市計画を考えるきっかけの場にするーーという発想の転換が、非常におもしろい試みだと感じました。江戸の中心だった日本橋の景観をどう次世代に受け継いで行くか。どんな街をつくっていくのか。船を降りた後も、鷲野さんとミズベリングスタッフの間での議論は尽きませんでした。とはいえ、難しい議論抜きに、日本橋の橋の下はかなりの異空間で非日常感を味わえるし、晴れた日は川面をゆく風と音楽がとても気持ちがいいイベントです。五感を研ぎすますことで見えてくる景色が広がるかもしれません。
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問い合わせは、音や音楽を通じて場を味わう「非日常の体験づくり」をおこなう「都市楽師プロジェクト」の公式サイトhttp://toshigakushi.com、鷲野宏デザイン事務所(050-3736-1404)

Writer's Profile
鈴木沓子
編集者・ライター

新聞社を経て独立、主にアートやメディア、都市の公共性をテーマに、編集・執筆・翻訳をおこなう。愛車SURLY パグスレーで、川沿いや浜辺など水辺ライドをゆくのが楽しみ。共訳書に『海賊のジレンマ』(フィルムアート社)、『BANKSY YOU ARE AN ACCEPTABLE LEVEL OF THREAT【日本語版】』(パルコ出版)、『BANKSY’S BRISTOL Home Sweet Home』(作品社)など。

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