2014.11.27

本音で水辺の未来を考える「水辺とまちのソーシャルデザイン懇談会」開催されました。

多彩なプロフェッショナルたちが水辺を考えるために結集。

11月16日隅田川に隣接するMIRRORビルのGocaiにて「第五回水辺とまちのソーシャルデザイン懇談会」が開催されました。懇談会といえば、専門家の意見をかしこまって頂戴する少し硬い印象を持つ方もあるかもしれません。ところが、本懇談会は「水辺がどうすれば盛り上がるか真剣に議論できるのが楽しくてしょうがない」と座長の法政大学デザイン工学部陣内秀信教授が述べるように、現場の行政マンからお洒落飲食店の経営者まで多彩なプロフェッショナルたちが、本音で水辺を考える会議です。前回の懇談会が2月末に開催されてから今までどのような動きがあったか、報告と意見交換が行われました。
最初に国土交通省水管理・国土保全局河川環境課の藤井さんからもはや恒例の「川ろうぜ」プレゼン。つくることでなく育てるという視点、賢く使う、民間のノウハウ、ソーシャルデザインの重要性など基本事項はいろいろあるけど、じゃあ、誰がやるの?行政だけがやるのではなく、まず「ここから始める。私から始める」ことが行政や事業も変えていく。みんなで「川ろうぜ」とアピールしました。最新ニュースとしては、行政だけでなく民間事業者も対象とした「地域再生水辺空間創造事業」という新しい整備事業メニューを現在検討中とのことです。

国土交通省水管理・国土保全局河川環境課の藤井さんのプレゼン

国土交通省水管理・国土保全局河川環境課の藤井さんのプレゼン

全国に広がるミズベリング会議

そして、ミズベリングプロデューサーの山名さんからこれまで一年間の活動の報告がありました。正直一年でミズベリングがこれほどのスピードで広がると思ってみなかったと話します。3月の東京を皮切りに、二子玉川、大阪、広島、長崎、沼津、鹿児島、松江とミズベリング◯◯会議が様々な地方都市で烽火のごとく広がっています。ミズベリング会議の内容やフォーマットは地方ごとの特徴や課題に併せて千差万別で決まりはありません。また、ミズベリング面白そうだから何か一緒にやろうよという企業やクリエーターが増殖中とのことです。行政も民間も共通点としては、いずれも自発的にボトムアップ型で広がっているところが特徴です。

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ミズベリングプロデューサー山名さんのプレゼン

次に、委員の方からの報告プレゼンが始まりました。まず、陣内先生からの報告。いま欧米では都市づくりで比重をかけるコアエリアとして水辺がどんどん再開発されて面白くなってきているとのこと。その背後には港湾施設の転換という状況があります。オスロやニューヨークなどの先進事例を紹介いただきました。ニューヨークではクリエイティブインダストリの中心はいまや川辺に移ってきているそうです。日本では、東京オリンピックに向けても、競技場の話ばかりで、水辺を活かす戦略的、集中的な議論や投資がまったく行われていないと嘆かれます。ただ、日本が駄目で欧米がいいというような話ではなく、アメリカは水辺を使う文化を最近手に入れた一方で、日本には漁村、神社、歴史などの水辺の文化があったので、実は水辺文化のイニシアティブを握ることができるはずだという指摘がありました。

陣内先生からの海外事例報告

陣内先生からの海外事例報告

投資サイドの三井信託銀行株式会社理事CSR担当部長の金井さんからは、河川沿いの小さなビルオーナーと月島から浅草まで隅田川を歩いたという報告がありました。実際に川辺を目にしながら、ミズベリングや規制緩和の情報を提供した上で、関心に応じてリノベや建て替えのコンサルや資金提供も考えているそうです。その結果、ミズベに位置する物流業界はミズベの環境への関心が高いことが見えてきました。また、ある企業の大阪本社ビルの新建設では、ミズベを活用して象徴的なものにしたいとうことで河川区域内での工事も考えるなど、民間企業のミズベへの関心の高さが示されました。
東京都の岡上課長からは、都のミズベへの多様な取り組みが報告されました。隅田川テラスでは8月から厩橋から蔵前橋まで照明が整備されました。スカイタワーなどの夜景ランドマークとミックスするような間接照明となって、ぐっと雰囲気が良くなったようです。イルミネーションでは、目黒川で、大崎周辺で「冬のサクラ」、中目黒付近で「青の洞窟」をモチーフとしたライトアップが11月23日からクリスマスまで行われています。夜のミズベの文化イベントとして、隅田川では、川ライブやカフェイベントを行う「絶景niteカルチャー」(https://www.facebook.com/sumicul)というイベントが来年の3月14日まで継続的に開催されます。夜にターゲットを絞った東京のおとなミズベ文化がよみがえって来たようです。また、自然系の話題として、・旧中川の亀戸中央公園付近にて、都心にかわせみが営巣したということで、意外と都心のミズベはエコアップしてきているという報告がありました。

東京都の岡上課長による目黒川イルミネーションの説明

東京都の岡上課長による目黒川イルミネーションの説明

大阪からの報告として、E−designの忽那さんからは、10月に行われたミズベリング大阪会議の報告がありました。ミズベセッション+スクールという二日間行われたこの会議では、参加者の半分以上は大阪以外ということで、多くの人が水都を訪れたことが分かりました。来年は水都大阪フェスに併せて、「ミズベリング世界会議」を行いたいとのビジョンを示していただきました。

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E−designの忽那さんから水都大阪の報告

編集者の紫牟田さんからは逗子での防災まちづくりへの参加を通して、川と海を分けずに考えること、楽しく過ごしながら防災を行うことの重要性をお伝えいただきました。これに対する反応として、陣内先生から木杭で出来た河口の都市ベネチアは、内陸のインターランドから木を切り出して流していた例を挙げ、流域のつながりを重要視する視点も共有されました。
ボート・ピープル・アソシエーションの井出さんは中央区浜町の防災船着場でのラグジュアリーなキャンプイベント「tokyo river glamping」の報告、久米繊維工業代表の久米さんからは「すみだ北斎美術館」での一日館長、一日学芸員などの「勝手に応援団的ソーシャルデザイン」のアイディアの報告がありました。お二人の報告からは、ミズベの文化を創出していく自発的な活動が行われている現場を実際に知ることができました。

ボート・ピープル・アソシエーションの井出さん「tokyo river glamping」の報告

ボート・ピープル・アソシエーションの井出さん「tokyo river glamping」の報告

予想以上の広がりとスピードを見せている「ミズベリング」ソーシャルムーブメント。全国各地でボトムアップで実に様々な活動が行われていることが今回の懇談会では確認できました。その内容は多種多様で、地域や主体の興味関心に応じて決まったものはありません。「ミズベリング」は水辺創造活動のために各自が使い倒すオープンソースと言えるかもしれません。

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この記事を書いた人

ランドスケープ・プランナー

滝澤 恭平

ランドスケープ・プランナー、博士(工学)。 「ミズベリング・プロジェクト」ディレクター、株式会社水辺総研取締役、日本各地の風土の履歴を綴った『ハビタ・ランドスケープ』著者。大阪大学卒業後編集者として勤務。2007年工学院大学建築学科卒業、愛植物設計事務所にランドスケープデザイナーとして勤務後独立。2022年九州大学大学院工学府都市環境システム専攻博士課程修了。都市の水辺再生、グリーンインフラ、協働デザインが専門。地元の葉山でグリーンインフラの活動を行う。

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