2014.10.18 Sat

沼津の狩野川まちづくりが熱い!
たった一年で社会実験から合意形成まで行う「川のテラス」の現場とは。

沼津の狩野川まちづくりが熱い!<br>たった一年で社会実験から合意形成まで行う「川のテラス」の現場とは。

静岡県狩野川河口の都市、沼津で始まった川のまちづくり。国、市、商店街、市民でコラボレーションしながら地域の魅力づくりが盛り上がっています。

沼津あげつち周辺狩野川活用研究会の社会実験

沼津の狩野川まちづくりが熱い!
たった一年で社会実験から合意形成まで行う「川のテラス」の現場とは。

狩野川は伊豆半島中央部と、富士山山麓に発する支流を集めて駿河湾へ流下する一級河川だ。
川の河口域は沼津市の中心市街地を貫いて海へと至る。いま、沼津市内では、狩野川の水辺をまちづくりへ連携させる取り組みが始まっている。1990年代半ばの河川改修によって、市街に隣接した階段護岸状のオープンスペース(川のテラス)が狩野川河口部に生まれた。川に面した気持ちのよい空間であるが、一年に数回のイベント以外には市民にそれほど使用されることはなかった。
狩野川「川のテラス」全景

2013年になって、川岸に位置するホテルから、階段テラスでオープンカフェができるか、国土交通省沼津河川道路事務所に問い合わせがあった。これを機として、国、市、商店街、商工会議所で、「沼津あげつち周辺狩野川活用研究会」が結成され、河川空間の利用調整へ向けた話し合いが始まった。研究会の事務局は沼津市商工振興課が取り仕切った。
2013年4月から始まった研究会では、回を重ねるごとに、単に漫然と話し合うだけでなく、実際に実践を行おうという機運が生まれた。川のテラスで、バーベキューをしたいというアイディアが出た。そのような意見はこれまでもあったのだが、実現したことはなかった。なぜできなかったのか、その理由を会で研究した。火器の使用に加えて、騒音やゴミなど、近隣住民が懸念しているいくつかのポイントが分かった。それらをクリアしたらできるのではないか。早速、地元のあげつち商店街の若手が、企画書をまとめて研究会でプレゼンした。サービス提供側が責任主体となって、バーベキューの片付けまできっちり管理するという手法だった。内容に納得した研究会は、社会実験としてのゴーサインを出した。同年夏、「水辺のバーベキュー」、「水辺のコンサート」、「オープンカフェ」が川のテラスで開かれた。結果として、多数の市民が押し寄せ、概ね好評であった。都市にありながら、河川のオープンスペースでくつろぐことの楽しさを初めて認識した市民も多かった。
商店街若手が提案した水辺バーベキューのイメージ

通常では、このような社会実験は、2、3年の研究会を重ねた後に行われることが多い。これほどの早いペースで進んだのは、地元のパワーの他にも、当時の国交省河川国道事務所の所長の情熱も大きかったという。その後、研究会は協議会の場へと発展した。河川の利用に関しては、協議会が、河川管理者である国交省に包括的な占有許可を年間計画で取る。協議会と国交省の管理責任の棲み分けについても十分な議論を行った。その結果、一時使用で、ある程度が内容が決まっているものについては協議会の権限で行い、大きな祭などは国交省マターなどの取り決めが行われた。
研究会の報告書では、9回の研究会と社会実験を通して分かったことを次のように述べている。市民の河川空間の利用を促進する上で重要なのは、①川に関心をもってもらうこと、②階段テラスを利用してもらうこと、③河川空間と周辺との連携を図ることである。河川空間と背後地の地域との連携に関しては、市も大きな関心を抱いている。沼津市全体の都市計画としては、沼津駅からまちなかにある川の水辺に動線を形成するという目標がある。また、わざわざ沼津に訪れる魅力を生みだすために、川という地域資源を活かしたまちづくりを目指している。市は、今後の課題を、ビアガーデンや夏祭りなど宣伝を打つイベントによる一時的なにぎわいだけではなく、日常の中で、お金をかけずに、にぎわいをつくって恒常的に回していくことにあると捉えている。また、市民から、水辺の新しい担い手が生まれることを強く待望している。

商店街の若手、水辺まちづくりリーダーたち

ステークホルダーの中で、キーとなったプレイヤーは地元の「沼津あげつち商店街」である。狩野川に隣接する商店街では、もともと川に関連したイベントを行ってきた実績があった。また、若手が新しい試みを行うことに対して、長老が寛容で、後押しもしていた。
商店街の若手が2013年にオープンした、地域資源を発掘し、美味しいものやプロダクトを販売するローカル・ショップ”Lot.n”が注目を集めている。Lot.nを訪れ、運営する平田百彩さんと小松浩二さんにお話をお聞きした。彼らは、狩野川活用研究会のメンバーとして、水辺のバーベキュー事業を実現させている。お二人とも30代半ば。地元の沼津、三島出身で、東京や海外での生活の後、Uターンで戻ってきた。
小松さん(中央)と平田さん(右)、左は国交省沼津河川国道事務所の矢原さん

小松さんは「目指しているのは、駿河湾の底から富士山の頂上までの六千mの資源を探すことです」という。沼津は伊豆半島の付け根にあり、駿河トラフという深海から、伊豆、富士山まで大変魅力的な資源がたくさん詰まった場所にある。Lot.nはそれらを発掘するセレクトショップであり、気軽に人が立ち寄るコミュニティサロンとなっている。小松さんは「沼津ジャーナル」という地域メディアをブログにて発信しているが、同時に、Lot.n限定のフリーペーパーを発行しており、その内容は実際にお店に訪れ手に取ることでしか分からない。フリペ版「沼津ジャーナル」はA5二つ折、地域の生産者やアーティストなど「人」に焦点を充てて発行されている。「沼津ジャーナル」と連動したイベントやワークショプも開催されており、地域のさまざまな人が集う場となっている。

Lot.n店内と「駿河湾の底から富士山の頂上までの六千mの資源を探す」と述べる小松さん
Lot.n限定のフリーペーパー「沼津ジャーナル」

左:沼津市内のおすすめをお客さんがポストしていく。右:伊豆半島のローカルフードマップ
Lot.nコミュニティスペース。

「沼津は街から2km圏内に海、川、山がある、遊びには最高の場所です」と述べる平田さんは、狩野川でのカヤック体験や、バーベキューなどアウトドアを担当している。もともとのプロジェクトは、「風のテラス」でのアクティビティ運営が出発点であったが、ただ川に利用者が来るだけでなく、川とまちをつなぐ場が必要と平田さんは考えた。さっそく、狩野川に並行する目抜き通りにある「あげつち商店街」の空き店舗に目をつけLot.nをオープンした。商店街の会合には毎回顔を出し、バーベキューの食材を商店街から仕入れ、商店街の長老たちから応援されるWin-Winの関係を築いている。
今年8月、「風のテラス」と「あげつち商店街」を行き来しながら、地元の食材を使った料理や買い物と、ライブ演奏をゆったりと愉しむナイトマーケットが開かれた。大変盛況だったこのイベントに続き、10月19日にはかのがわローカルマーケットと水辺のステージ、狐の嫁入り行列が予定されている。
狩野川ローカルマーケット

川と商店街で同時進行のナイトマーケット“夜の稲荷市”が開催された

狩野川の河口の地に位置する沼津は、江戸時代から近代にかけて、流域の産物である米や木材、石材の水運と、太平洋沿岸を巡る海運、さらに東海道がクロスする川・海・陸の交通ネットワーク拠点として大いに栄えた港湾都市であった。沼津の人びとには、新しいものを取り入れる商人の気風があるという。伊豆から富士山までの地域の魅力的なモノと人々が集まる交易都市としての沼津。今、まちを狩野川にひらくことによって、再びにぎわいが取り戻されようとしている。

関連リンク

沼津あげつち周辺狩野川活用研究会
Lot’n

Writer's Profile
滝澤 恭平
まちづくりプランナー/編集者/ディレクター/水辺総研主任研究員/善福蛙事務局長/「ミズベリングプロジェクト」ディレクター

1998年大阪大学人間科学部卒業、角川書店にて編集者として勤務。2007年工学院大学建築学科卒業、ランドスケープデザイン事務所・愛植物設計事務所勤務。2011年より独立。雑誌「ソトコト」で地域の自然と人間の関係をさぐる“ハビタ・ランドスケープ”を連載。九州霧島火山のWebマガジン「あまつち」、テクノロジーと未来社会に関する「テレスコープマガジン」等を立ち上げる。地域、環境、技術などをテーマとしたコンテンツの編集、地域づくりのプロデュース等を行う。地元の水辺として、東京杉並区の善福寺川を市民力で里川に変える「善福蛙」で活動を行っている。
2014年東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了、水辺インフラの合意形成を研究。2015年、水辺総研を共同設立者として立ち上げ、全国の水辺のまちづくりを精力的にサポートしている。
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